大西脳神経外科病院

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もやもや病

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もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)について

どのような特徴をもつ病気なのか

 もやもや病は脳の血管に生じる病気です。両側の内頚動脈がその終末部を中心に細くなり、大脳への血流が悪くなっています。このため脳底部に「もやもや血管」(本来はもっと細い穿通動脈で血管造影では見えません)が代償的に発達しています。つまり幹線道路が詰まって、その周囲のわき道が非常に頑張って必要な栄養分を脳に運んでいることになります。このわき道がもやもや血管です。もやもや病で細くなる血管は“ウィリス動脈輪”という血管の環状交差点(ロータリーのようなもの)をつくっています。そのためウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれます。もやもや血管の代償的な働きにより通常はなんとか症状を示さずに済んでいますが、泣く・吹奏楽器・運動をする・ラーメンを食べるなどの過呼吸を行うと脳血管が収縮してしまうため、脳血流に予備能力が足らない本症では手足の脱力や言語障害などの脳虚血(脳の血流不足)症状をおこします。
この病気の発症年齢は小児期と成人後(40歳台)に二つのピークがあり、小児では殆どが脳虚血・成人では半数が脳虚血・半数が脳出血で発症します。脳出血は無理な血行動態をとって血行力学的負荷のかかっているもやもや血管から出血するとされています。これは脳細胞に血液を供給するため太い血管から枝分かれした細い血管が、太くなり不足した血液を補います。しかし、本来の太さ以上に拡張して多量の血液をおくるため切れやすく、頭蓋内に出血を起こすと考えられていますが、現在のところはっきりした原因は解明されていません。

 

もやもや病はどのような人に多いのか

 もやもや病には家族内発症するかたが10~12%程度に見られると言われています。つまり、本人がもやもや病の場合、その親や兄弟姉妹、いとこなどにももやもや病の方がいる可能性が一定程度(10~12%程度)ありうるということです。

 

もやもや病はどんな症状があるのか

 大脳の血流不足による症状が起きやすく、症状が一過性に出現することがあります。典型的には、手足の麻痺やしびれといったものですが、言葉が話せなくなったり、ろれつがまわらなくなるといった言語障害もしばしば見られます。小児では、熱いめん類などの食べ物をたべるときのふーふーと冷ます動作や、フルートなどの楽器演奏や走るなど息がきれるような運動が引き金となって症状がでることがしばしば見られます。脳内の二酸化炭素濃度が低下して脳血管が収縮しさらに血流不足になることが原因です。一方、口の周りや手足のしびれ、早朝起床時の頭痛といった一見、軽微な症状で頭部の検査をした所、この病気が判明することもあります。また、けいれん発作や手足が意思に反してガクガクと動いてしまう不随意運動という症状も稀に見られます。
また、高次脳機能障害といって成人の患者さんに情報処理能力、注意力、記憶力などの低下を来す事もあります。小児期に脳梗塞、脳出血を来した患者さんには知能の発達障害が見られる事があります。

 

 もやもや病に対してはどのような治療法があるのか

 薬物治療としては抗血小板剤があります。これは血小板の機能を抑制して血栓が作られにくくすることにより虚血発作を予防する薬ですが、これには脳血流を増加させる作用はありませんので脳血流が低下しているもやもや病ではその効果には限界があります。このため、脳血流が低下している場合にはそれを増加させるバイパス手術(血管吻合手術)が行われます。
バイパス手術の目的は低下している脳血流量を増加させ、脳虚血発作を予防し、かつもやもや血管にかかっている血行力学的負荷を軽減させることにより将来脳出血を起こしにくい環境を作ることにあります。しかしながら、出血しやすい部位そのものを摘出するような手術ではないため、出血を絶対的に予防できるものではなく、あくまで出血しにくい様な状況を作り出すというものです。
頭皮の動脈と脳表の動脈との血管吻合術を行うバイパス手術は直接バイパス術(つまり直接血管同士を縫い合わせる)と呼ばれています。もやもや病にはこれ以外にも間接バイパス術(血流の豊富なもので脳表を覆う)とよばれる手術があります。間接バイパス術は手技が容易であるという利点があり広く普及していますが、間接バイパスは自然発生的な効果を期待する手術であるため、手術をする患者さんの2/3程の確率でしか有効な手術効果が期待できないことが報告されています。また、手術をしてから効果が発現するまで、時間がかかるという欠点があります。また、成人における間接バイパスの成功率は小児症例に比べて確率が低いことが知られています。
内頸動脈はその末端で中大脳動脈と前大脳動脈に分かれます。バイパス手術は通常中大脳動脈が栄養し言語中枢や運動中枢がある領域(中大脳動脈領域)に対して行われます。
運動中枢には顔や手、足などそれぞれの担当部位がありバイパスを行う中大脳動脈は主に顔や上肢に関する運動中枢を栄養し、下肢の運動中枢は中大脳動脈のみならず前大脳動脈からの血流にも依存しています。殆どの場合は通常の中大脳動脈へのバイパスを両側で行うとダイレクトではないものの下肢の運動中枢へも血流増加効果があり、下肢の脱力発作もなくなるか、あるいはあってもごく短時間で軽度の発作が稀にみられるのみですが、稀に下肢のみの脱力発作が残る患者さんが少ないながら居られます。このような場合には、前大脳動脈へのバイパス手術が必要になります。同様に視野の中枢である後頭葉の脳虚血症状(視野欠損、見えなくなる発作など)が見られるようなら、後頭葉へのバイパス手術が必要になります。

もやもや病はどのような経過をたどるのか

 脳の血管の閉塞に関しては、最初の診断時と同じ状態が長年変わらない人もいれば、徐々に進行していく人もいるといわれています。従って、定期的なMRIなどによる検査が必要と思われます。
適切な治療や管理を受けて学業生活を終えて就労されている方や、妊娠出産をへてお子さんをお持ちになっておられる方が多くいらっしゃいます。約7割程度の患者さんは、症状的には安定して生活を送っていると見込まれています。
一方で、初発症状が脳出血や脳梗塞の場合は、運動麻痺、言語障害、高次脳機能障害などが後遺症として見られることがしばしばあります。小児では、明らかな身体的障害を持たなくても、慢性的頭痛などによる不登校もしばしば見らます。成人では高次脳機能障害による就労困難なども少なくないと見られます。
日常生活において注意すべき点としては、特に小児の場合では症状がしばしば出現する場合、激しい運動、楽器などの演奏は控え、なるべく早期に手術治療を行うことを主治医と相談すべきであると思われます。
治療後、症状が安定している児童に対しての過度な生活動作制限の必要はないので、手術後に症状が消失しているにもかかわらず、長期に渡り日常生活などが制限されている場合には学校及び主治医と相談してください。
手術後、一過性虚血発作がたびたび起こる例であっても半年~1年程の経過で安定することが大多数と思われます。このような場合な期間を除き基本的には日常生活での制限を要する場合はないと考えられます。
 

治療事例の紹介
6歳、女児のもやもや病