環軸椎亜脱臼などの頭蓋頚椎移行部病変
頭蓋骨とその直下の第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)は頭の回旋や傾き運動を行うための複雑な構造をとっており、多くの靭帯や筋肉が関わってぐらつきが生じないようになっています。この場所は一般的には「頭蓋頚椎移行部」と呼ばれ、内部に小脳、脳幹、脊髄(上位頚髄)と、それらを栄養する左右の椎骨動脈など、非常に重要な組織が収められています。この部分の障害は、手足の機能はもちろん、意識、嚥下機能、発声機能、呼吸障害など、生命に直結する問題が発生します。
この頭蓋頚椎移行部にも、加齢に伴う関節や靭帯の変性により骨の間の関節がずれる(亜脱臼)異常が発生し、脳幹や上位頚髄が障害されることで四肢麻痺や呼吸障害などの重篤な症状が出現し、椎骨動脈の閉塞により重篤な脳梗塞をきたします(Bow-hunter症候群)。原因として加齢に伴う変性以外にも外傷、慢性関節リウマチなどの全身炎症性疾患、腫瘍、先天奇形などで発生します。初期には後頭部・後頚部痛などが出現しますが、進行すると様々な小脳・脳幹部障害や四肢障害、呼吸障害(睡眠時無呼吸)などが出現します。
診断には、レントゲン検査、CT検査、MRI検査などに加え、造影剤を用いた血管撮影が必要です。さらに、首を動かして様々な位置で検査を行うことも必要です。
治療は、ごく軽度の場合は頚椎カラー装着などで頚部の安静を図り、鎮痛剤などで痛みのコントロールを行いますが、関節の不安定性にて物理的に脊髄が障害されているため、薬物による根本治療は不可能で、症状の経過や状態に応じて手術治療が必要になります。
現在は、顕微鏡を用い、ずれた骨を精密に削ることで脊髄の圧迫を取り除き(除圧術)、関節のずれを矯正し固定する(固定術)方法を組み合わせて行うのが一般的です。前述のとおり、この部分には生命にとって非常に大切な神経や血管が複雑に走行しているため、手術にはレントゲン装置や術中ナビゲーションシステムを駆使し、経験が豊富な術者によって精密に行われることが望まれます。頭蓋頸椎移行部は神経外科・脊椎脊髄外科領域でも特殊な部位であり、診断・治療も容易ではなく脳・脊髄・脊椎などに対する総合的な知識や経験が重要となります。