骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
全身の骨は絶えず作られては吸収され、一定量の骨量が維持されています。加齢などによってこの骨の新陳代謝のバランスが崩れ、骨がスカスカになった病的な状態を「骨粗鬆症」と呼びます。骨の体積量が減少するのみならず、骨の質も悪くなるため、非常に脆く折れやすい状態になります。骨代謝は女性ホルモンの影響を強く受けるため、閉経後の女性に非常に多く発症し、その他、血液透析をされている方やステロイドを長期間服用する必要のある方などに多く発症します。我が国では約1300万人の患者さんがいると推定されていますが、診断を受け、きちんと治療を受けている方はそのうち2割程度と考えられています。大勢の高齢の方が骨粗鬆症を発症していることに気づかず、軽微な外傷を契機に脊椎や大腿骨などに骨折を生じ、長期間の入院や手術治療が必要となることが現在でも社会的に大きな問題となっています。
骨粗鬆症が進行すると、転んだり尻もちをついたりする以外にも、例えばくしゃみをしたり前屈みになったりするだけでも圧迫骨折を生じることがあります。脊椎に生じる骨折は、多くは前方の椎体と呼ばれる箇所がつぶれて圧迫骨折とよばれる状態を来します。骨折が生じると、背中や腰に激しい痛みが出現し、起き上がることが難しくなります。つぶれた骨はどんどん変形し、姿勢も悪化(いわゆる猫背)することで、さらに隣の骨にも負担が大きくなるため、ドミノ倒しのように次々に圧迫骨折が生じてゆきます。
骨粗鬆症の診断は非常に簡単で、現在は多くの健康診断で骨塩定量(いわゆる骨密度測定)が行われており、手やかかとで測定する簡易法である程度診断することは可能です。正確にはレントゲンを用いた腰椎と大腿骨の骨密度測定(DXA法)と血液検査での骨代謝の評価が必要で、本院では必ずこちらの方法で正確に評価し、検査結果に応じて適切な治療を行うようにしています。
骨粗鬆症の治療は、まずは食生活の改善、適切な運動療法に加え、骨代謝を改善し骨量を増加させる薬物を併用して行います。現在さまざまな薬物が開発され、骨粗鬆症の状態に応じていろいろな種類を組み合わせて治療を行うことが一般的です。残念ながら圧迫骨折を生じた場合は、まずは安静、鎮痛、コルセット装着、薬物投与などで圧迫骨折の治癒を図ります。それでもなかなか痛みが取れずに長期間のベッド上安静の状態が続いたり、骨折の治癒が進まずに変形が進行する場合は、早期治癒を目指し手術治療(経皮的バルーン椎体形成術(BKP)や椎体固定術など)を行います。骨折した骨で脊髄や神経が圧迫されて足の麻痺やしびれ、痛みが出現する場合は特に手術治療が必要となります。基本的には高齢の方が多く、また骨自体も非常に脆いため、手術もできるだけ負担の小さく早期離床が可能な術式を選択します。
日常の生活習慣を調整し適切な薬物治療を行うことで、骨粗鬆症の進行を予防し、骨折の発生を予防することが可能です。特に中高年以上の女性の方は、定期的に骨密度測定を行い、早期に診断を受け治療を開始することが、生涯にわたって健康的に過ごすために非常に重要であります。