手がふるえて字が書けない、お箸がうまく使えない、コップの水をこぼすなど、など何かの動作をしようとすると「ふるえ」がおきる状態を医学用語で「振戦(しんせん)」と呼びます。身体の部分が自分の意図とは別に(不随意に)リズミカルに振動する運動のことを指します。振戦には、寒いときや興奮したときに体がふるえる自然な(生理的)振戦、甲状腺機能亢進症などの内科的疾患による振戦、アルコールの離脱による振戦、「パーキンソン病」や「本態性振戦」など脳の異常による振戦があります。「パーキンソン病」や「本態性振戦」は基本的には命に関わる病気ではありませんが、振戦があることで、人前で食事ができないなどからひきこもりがちになることも多々あります。「本態性振戦」や「パーキンソン病による振戦」の治療は薬物治療が基本ですが、薬物治療で十分な効果が得られない場合や、薬の効いている時間帯が短くなってきた時には手術療法が検討されます。
従来は高周波凝固術(RFA)と深部脳刺激療法(DBS)の二種類の治療法のみでしたが、近年はMRI検査を併用して治療する集束超音波療法が注目を集めています。その名もMRガイド下集束超音波療法(MRgFUS)です。このMRgFUSは超音波の振動で発生した熱により異常神経回路を破壊することで「ふるえ」の原因となる異常な神経ネットワークを焼き切り、破壊することでふるえを止めることが出来ます。
脳神経外科部長
前岡 良輔
またMRIを併用するので、治療中は常にMRIで監視でき、異常をすぐ検知できる比較的安全性の高い治療方法です。症状の改善具合も確認しながら治療を進めることができます。本態性振戦は命にかかわることがないからこそ、高齢の方の治療においては、何よりも手術の安全性に配慮をする必要があることを考えると理想的な治療法といえるでしょう。
当院では2016年に集束超音波治療器を導入して以降、本態性振戦だけではなくパーキンソン病の治療についても力を入れて取り組んできました。もちろん、すべてのパーキンソン病患者さんが本治療の適応になるわけではなく、それぞれの患者さん毎に、その時の状況に合った最適な治療法をご提案させて頂きます。切らずに治す「ふるえ」の最新の治療にご興味がある方、またご家族や身近な方、ご友人にこのような症状のある方がいらしたら是非この病気の治療方法をご紹介いただくか、気軽にご相談下さい。
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