脊椎・脊髄センター
センター長のご紹介
山本 慎司
脊椎・脊髄センター長 脳神経外科部長 日本脊髄外科学会認定医・指導医 日本脳神経外科学会専門医・指導医 日本脳卒中学会専門医 日本脳神経血管内治療学会専門医
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はじめに
2016年4月より、脊椎・脊髄疾患の専門的治療を行う「脊椎・脊髄センター」を開設し、多くの患者さんの診療を行っています。近年の画像検査や病態解明の進歩、様々な治療技術の発展などにより、脳、脊髄、末梢神経を含めた神経疾患に対する診断・治療は著しく進歩いたしました。脊椎・脊髄領域においてもその進歩は目覚ましく、一昔前には診断や治療が困難であった病態も、適切な診断を行い、安全に治療を行うことが可能になっています。我々も積極的に新たな診断機器や治療技術を導入し、多くの患者さんの手足のしびれや痛み、首や腰の痛みの治療を行っています。
これからも神経疾患の高度専門病院として、脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷などの脳疾患の治療はもちろんのこと、脊椎・脊髄、末梢神経に至るまで全身の神経に関する病気に対し、専門的な知識と技術を駆使して包括的に診療を行い、少しでも多くの患者さんの症状の回復を目指し、引き続きスタッフ一丸となり努力して参ります。
脊椎・脊髄とは
運動、感覚、記憶、感情などの働きをつかさどる「脳」から連続し、手足や内臓との情報連絡を行い、自律神経機能の中枢でもあるのが「脊髄」であります。背骨の中に収められた直径約1.5~2cmの細長く非常に脆弱な神経組織でありますが、手足の末梢神経と異なり、脳と同じ中枢神経(いわゆるメインコンピューター)であり、生命にとって不可欠な臓器であります。
ヒトを含め、すべての脊椎動物(背骨をもつ動物)において、「脳」は頭蓋骨に厳重に保護され、同様に「脊髄」は、体の大黒柱である脊椎(いわゆるせぼね)の中の狭いトンネルに収められ、厳重に保護されています。脊椎動物は進化の過程において、生命を維持するために大切な中枢神経を頭蓋骨と背骨の中に収め、様々な外的要因から守るようになったわけです。
ヒトでは「脊椎」は7個の首の背骨(頚椎)、12個の胸の背骨(胸椎)、5個の腰の背骨(腰椎)、6個のお尻の背骨(仙椎、尾骨)で構成され、この30個の骨が関節、椎間板、靱帯でつながることで支持性と可動性を持ち、大黒柱として体全体を支えたり、曲げたり捻じったりするいろいろな動きをとることができるようになっています。つまり、「脊椎」は手足と同じく運動器としての役目も持ち、その中に脳と同じ大切な中枢神経である「脊髄」が収められ、それぞれの背骨の関節の隙間を細い「神経根」と呼ばれる体の各部分につながる末梢神経が通過する非常に複雑な構造をとっています。
ヒトは他の脊椎動物と異なり、直立2足歩行で生活しているため、重力に逆らって頚椎は頭を支え、腰椎は上半身を支え、一生涯過大な負荷がかかり続けます。そのため、年齢を経るごとに姿勢の変化などで徐々に骨が変形し(変形性脊椎症)、椎間板が変性・突出し(椎間板ヘルニア)、骨の並びがずれ(脊椎すべり症)、靱帯が変性肥厚し(靱帯肥厚症・靭帯骨化症・靭帯石灰化症)、その結果として脊髄や神経根の通り道が狭くなることで(脊柱管狭窄や椎間孔狭窄症)、手足のしびれや痛み、首や腰の痛みなどが出現するようになります。その他、外傷や腫瘍、血管障害、感染、代謝障害などで脊椎・脊髄それぞれに様々な疾患が発生することで、同様の症状が出現します。
運動器である脊椎(せぼね)とその中に収められたコンピュータである脊髄(中枢神経)は非常に密接な関係にあり、この特殊な構造と病態のため、従来より日本を含め様々な先進国において、神経疾患を専門とする脳神経外科と運動器を専門とする整形外科がそれぞれ治療を行ってきました。最近は脳神経外科と整形外科の垣根を越えてお互いの長所を取り入れ、脊椎脊髄疾患を専門的に診療する専門医が増え、日本でも現在両診療科の共通の脊椎脊髄専門医制度の準備が進んでいます。以前と異なり今日では検査方法、薬物、手術などの治療技術も進歩し、脳神経外科と整形外科のどちらの診療科で治療を受けるのかは問題ではなく、専門的な知識と技術を持ち合わせた、経験豊富な脊椎脊髄専門医と相談しながら治療を行うことが非常に大切であります。患者さんの訴えを傾聴し、正確に神経を行い、いろいろな検査を駆使し、十分な知識と経験に基づいて高い技術をもって脊髄・脊椎疾患を診療する専門医のもとで治療を受けることをお勧めします。
大西脳神経外科病院 脊椎・脊髄センター外来
大西脳神経外科病院では、全身の神経疾患を包括的に診療できるように、一般脳神経外科外来に加え、各専門外来を開設しています。脊椎・脊髄疾患に関しても、手足のしびれや痛み、首や腰の痛みでお困りの患者さんを早く診察できるように、月~水曜日の平日午後に毎日「脊椎・脊髄外来」を行い、可能な限り受診当日にMRI検査やレントゲン検査、CT検査、骨塩定量検査などを行い、速やかに診断が得られるようにしています。
脊椎・脊髄外来の受診を希望される方は、当日来院されても診察は可能ですが、かかりつけの先生から事前に紹介予約を取っていただけると、少ない待ち時間でスムーズな検査や診察が可能です。
大西脳神経外科 脊椎・脊髄センターの手術治療と実績
本院は2000年12月の開院以降、脳神経外科診療を展開し、2005年以降は病院全体で年間600~700件の脳神経外科手術を行って参りました。高度に訓練された術者が、専門の麻酔科医、手術室スタッフとともに、臨床工学士や生理検査技師による神経モニタリングやナビゲーションシステム使用下で安全に手術を行い、多くの患者さんに満足していただける治療を提供してきましたが、本院で治療を希望される患者さんの増加に対応しきれず、
手術の待機時間がどんどん延長してしまう問題が発生いたしました。生命に直結し重篤な後遺症を残す危険が高い頭蓋内疾患の患者さんを優先せざるを得ないため、結果的に脊椎・脊髄疾患や末梢神経疾患の多くの患者さんにご迷惑をおかけすることになりました。この問題を解消すべく、2013年6月に新病棟の増築、計4室への手術室増室(うち1室は手術室に血管撮影装置を組み込んだハイブリッド手術室)、術中MRI装置の導入を行い、患者さんの希望に沿った手術日程を計画できるようになり
ました。以降、本院での脊椎・脊髄手術件数は2014年は79例、2015年は111例と増加して参りました。2016年以降、現在は週3~5件の手術を実施しています。
手術はできるだけ低侵襲な方法で行い、早期離床を図り、不必要な内固定術を行わないことを基本としています。個々の病状に応じて最適な術式を選択しますが、頚椎は前方除圧固定術と後方筋層構築的棘突起椎弓形成術、胸腰椎は顕微鏡下部分椎弓切除や椎間板摘出術が多く、全例翌日より歩行、リハビリテーションを開始しています。脊椎不安定性や高度のアライメント不良を認める場合には個々の病態に応じて最小限の内固定術を追加する方針にしています。その他、骨粗鬆症性椎体圧迫骨折の遷延治癒症例に対する経皮的バルーン椎体形成術(BKP)、難治性疼痛に対する脊髄刺激療法(SCS)、バクロフェン髄腔内投与療法(ITB)、ボトックス療法なども併用し、リハビリテーションスタッフの協力の元で土日祝日年末年始も途切れることなく毎日入院リハビリテーションを継続し、よりよい回復を目指した集学的な治療を展開しています。